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【おすすめ本】生命とは何か?最先端の分子生物学が描く生命観とは?人類最大の謎に迫る「動的平衡」シリーズ

生命とは何か?

そんな根源的な問いに対する筆者の一つのこたえが

動的平衡

である。

筆者がこの「動的平衡」論に至ったヒストリーから最新の分子生物学が何を示しているのか?まで、知的興奮を味わえる4冊をいっきにご紹介します。

生物と無生物のあいだ    福岡伸一

 

福岡先生のベストセラーとなった本書。

分子生物学全盛の現代に、その黎明期がどんなであったか、また、そんな時代を研究者として過ごしてきた筆者が考える生命観とは?

筆者である福岡先生の科学者とは思えないくらい綺麗な文章が、「生物とは何か?」を提唱しています。

●DNAの発見からそのメカニズムまで

生物の話をするときにDNAを理解していないと内容が理解できないであろうこともあって、DNA発見の歴史を、それにまつわる科学者たちのストーリーと織り交ぜて紹介しています。

●生命とは何か?

そして物語はここから核心に入っていきます。

「生命とは何か?」

この問いは量子論を築き上げた天才物理学者の一人、エルヴィン・シュレーディンガーが1944年に書いた「What is life?」から始まっています。

その中で個人的に非常に興味深く読ませてもらったのが、「平方根の法則」

実はこの法則を初めて知ったのは週間少年ジャンプで連載をしていた「トリコ」というマンガの中でした。

このマンガの中で、あるキャラクターの必殺技が「平方根の法則」を使った「マイノリティーワールド」という技で、相手のマジョリティとマイノリティを逆転させてしまうというものでした。

その技の説明で出てきた平方根の法則に興味を持ち、そんな法則が本当にあるのか?という疑問をもちながら過ごしていた所に、この本で本当に出てきたので、「マジか!」という思いでした。

それは統計的な法則らしいのですが、シュレーディンガーはこんな問いをしています。

「原子はなぜそんなに小さいのか?」

それは逆に言えば、「生物はなぜそんなに大きいのか?」と同義です。

それは、平方根の法則に支配される物質が、少ない構成数で生物を形成していれば何が起こるか?を考えれば視えてきます。

平方根の法則は、「その数の平方根の数だけは、他と違った振る舞いをする」といった統計的な法則ですから、そのベースの数が小さければ小さいほど全体が受ける影響が大きくなることが想像できます。

逆に生物として全体が秩序だって統制された状態を保つ為には、全数を大きくして、平方根の法則で異常な振る舞いをする原子の全体からの割合を減らす必要があるのです。

これは目から鱗でした。

動的平衡という生命観

そして、ついに福岡先生は動的平衡という生命観にいきつきます。

その考えにいたった大きな出来事としてルドルフ・シェーンハイマーという科学者が成功させたある実験について書かれています。

その実験の結果から言えることは、生物の細胞を形作っているタンパク質は、常に食物から摂取されるタンパク質と入れ替わっているということでした。

そう、私たちの身体は、数か月もすれば全く違うモノにすり替わっているのです。

外から見れば変化はなく、静的に平衡を保っているように見えても、ミクロの世界では常に壊して作り直す作業が繰り返されているのです。

そして、その状態のことを筆者は動的平衡と呼んだのでした。

この「動的平衡」という考えを元に福岡先生の生命観は展開されていきます。

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか  福岡伸一

前著「生物と無生物のあいだ」の続編と捉えて問題ないでしょう。

ここから本格的に福岡先生の動的平衡論が展開されていきます。 

●人間が学ぶ事の意味

まずは、記憶のメカニズムについて、その研究の歴史から現在わかっている所までを紐解いていきます。

そして、我々の脳が認識しているものは、本当にそこにあるものではない事が多いという事。

つまりバイアスがかかってしまっており、そのものを見ていない可能性があることを意味している。

福岡先生は、そこに人間が学ぶ事の意味があると説いています。

要するに、科学を学ぶ事によって、物事を客観的に視ることができるようになり、直観というバイアスを出来る限り外す事で真実に近づく事ができるという事。

確かにその通りだと思います。

でも、学ぶ事によってかかってしまうバイアスもあったりするんですよね

だから、出来る限り広い分野を学ぶ事で特定のバイアスがかかるのを防ぎ、真実を読み取る目を養いなさいということだと捉えています。

●身体は食べたモノでしか出来ていない

前著「生物と無生物のあいだ」でも出てきましたが、生物の身体を形作っている細胞は、食物として食べたタンパク質でできている。

細胞は常に自分を壊しながら、新たに取り入れたタンパク質をつかって再生しており、その為に生物は食べ続けなければならない。

そう考えると、自分が食べるものは大丈夫か?と考えてしまいます。

当然、食べたものがそのまま使われるわけではなく、消化の段階で、タンパク質はアミノ酸のレベルまでバラバラにされてから使われるので、同じなのかもしれないが、それでもやはり気になってしまいます。

それに対する警鐘は、本書でも遺伝子組み換え食品の例を取って挙げられていますが、やはり安全な食品にはそれなりのコストをかけなければいけないという事です。

一番重要な食にコストをかけない世の中の傾向に対しても著者は警鐘を鳴らしています。

●ダイエットを科学する

この本が出されたのが2009年ですが、この時既に、福岡先生は、現在メディアなどでよく言われている「食べ順ダイエット」や「GI値」といった概念の科学的説明を本書でしています。

カニズムがわかると効果も上がりそうな気がしてくるし、今、自分の血糖値が上がって膵臓インシュリンを出して、脂肪細胞が血糖を細胞に取り込もうとしているのか?と想像すると楽しくなってきます。

●万能細胞とガン細胞は表裏一体

そして、本書で自分が一番気になったのがこれです。

「万能細胞(ES細胞やiPS細胞)とガン細胞は表裏一体」

ES細胞とは、人工的に分化の時間軸を止められてしまった細胞で、まだ何者にもなれていないが、増殖だけする細胞。

ガン細胞は、何かの役割(心臓や肺など)をもった細胞が、何かの拍子にその役割を忘れて増殖だけする状態に戻ってしまった細胞。

そう考えると、ガンという病気は、他の病気と違って自らの細胞との闘いなわけです。

しかし、そこには「生命とは?」という問いに対するヒントが隠されているような気がしてなりません。 

動的平衡2 生命は自由になれるのか    福岡伸一 

前著「動的平衡」の続編です。

 ●遺伝は遺伝子が全てではない?!

遺伝子とは、生命の設計図なんて言ったりします。

それは間違いないのですが(正確にはタンパク質の設計図?)、では、同じ設計図であれば同じ生命となるのか?といったらそうではないらしい。

ヒトとサルの遺伝子の差はごくわずかであるらしいが、その差がヒトとサルの差を決定づけているわけではないと

遺伝子とは楽譜のようなもので、同じ楽譜でも演奏する人によって全く違う音楽になるように、生命も遺伝子の情報をもとに構成されるが、その情報の強弱、ON/OFFのタイミングを調整することで、その個体の生命として成立している。

このような考え方を「エピジェネティックス」というそうです。

●植物から動物へ

植物と動物の違いはなんだろうか?

そんな疑問に福岡先生は一つの仮説を立てています。

分子生物学的に言うと、動物には必須アミノ酸が存在するが、植物には存在しない。

必須アミノ酸とは、体内で生成できないアミノ酸のことで、ヒトには9種類の必須アミノ酸が存在し、それは食物からしか摂取することのできない栄養素である。

ということは、植物の方がすごいじゃん!

ってなります。

この一見退化のようにも見える動物の形態がなぜ形成されたのか?

そこに動物誕生の秘密が隠されているのではないか?という視点で動物誕生の秘密に福岡先生の仮説がせまります。

●時間を止めて見えるもの

研究とは、対象物の時間を止めて観察することから始まります。

そして研究者は、その止まった対象物を見て、そこで確認できる因果関係が全てだと思い込んでしまう。

しかし、本当はその前後に流れる時間を想像しなければならない。

我々エンジニアも、あるデータを見て、そこに視えた因果関係に引っ張られて全体が視えていない事がよくある。

福岡先生は、生命に「因果関係なんてものはなく、全ては関係性の中で成り立っている」と言っています。

それは、仏教の釈迦の思想でいうところの「縁起」に似ています。

自分が作用を及ぼしていると思った次の瞬間には作用を及ぼされていたりする。

つまり、一方向の関係ではなく、双方向の関係なのだと

それは、量子論で言う所の粒子と波の相補性にも似た感じなのでしょうか?

こういう議論ってどこか哲学的になってくるんですよね

●ニワトリが先か?卵が先か?

これと同じような謎が生命にもあるようで、

「DNAが先か?タンパク質が先か?」

といった謎である。

DNAはタンパク質の設計図だから、タンパク質はDNAがなければ作れない。

しかし、DNAはタンパク質でできており、DNAもタンパク質がなければ作れない。

このパラドックスの答はまだ謎であるが、本著では、RNAワールド仮説なるものが紹介されている。

RNAとは、DNAとタンパク質の間を橋渡しするメッセンジャー的な役割のものだが、そのRNAが太古の昔にはタンパク質の役割も担っていたのではないか?という仮説である。

詳細は本書を読んでいただきたいが、そんな生命誕生の秘密に頭を妄想させることができるのは、生命の中でも人間だけにしかできない楽しみでしょうね

●フェロモンの正体

虫の観察結果などによってフェロモンの存在が確かなことがわかっているようだ。

我々がフェロモンという言葉を使う時は、何か空気感的な感覚で使っているが、実際にそのような作用を及ぼす物質は存在し、人間も例外ではないという。

例えば、女性の生理が長く一緒に生活をしているとタイミングが合ってくるという「マクリントック効果」と呼ばれるものだ。

これは、脇の下から発せられる物質によるものらしい。

このような便利なフェロモンを生物が最も使いたがる時はいつだろうか?

それは、種の保存の時である。

当然、ムシ達もこのような用途で使うフェロモンをもっている。

ということは、人間にもあるだろうと思うのが筋である。

いまだ、そのフェロモンについてははっきりしたことはわかっていないらしいが、普段異性に対して、何か気になるとか、惹きつけられるとかいった現象は、実はそういう物質が関係しているのかもしれません。

●木を見て森を見ず

ここで、福岡先生は、昨今の国家的な活動となっているCO2削減について言及している。

まず、人間の活動で排出されるCO2は空気全体のボリュームに対して、相当に小さいので、それを多少削減したところで、CO2がどれだけ温暖化に影響を与えるのかというのは、感覚的には疑問が残るという事。

ただし、だからといって何もしないでよいということではなく、CO2の少しの増加が地球全体の動的平衡のバランスを崩し、どこかで大きな影響が表れる可能性に備えて、やれることはやったほうがよいというスタンスである。

まさに動的平衡を基本スタンスとする福岡先生らしい考えだ。

私もその選択肢もなくはないと考えているが、もう少し冷静に考えて、CO2を減らす事が本当によいことなのか?他にもっとやらなければいけない事がないだろうか?といった議論が必要だと考えている。

そう、まさに木に捕らわれすぎて森が視えていないのでは、逆に危険な選択をしていないか慎重に判断すべきだろう。

何よりも、上記のような科学的事実を一般の人がどれだけ正確にしっているのだろうか?

まずは、事実を知るところからスタートするべきだ。

出来る限りバイアスのかかっていないフラットな視線で

動的平衡3 チャンスは準備された心にのみ降り立つ  福岡伸一

福岡先生の動的平衡シリーズ第3弾!!

福岡先生が提唱する「動的平衡論」

それは、組織論や芸術論といったところまで拡張できるのか? 

●著者が考える組織論

動的平衡という生命の在り方に対する著者の考えを、組織を生命になぞらえて当てはめてみる。

この「考え」は、動的平衡シリーズを読むうちに自分にも芽生えていたものでした。

動的平衡とは、この世界の万物に働く法則「エントロピー増大の法則」に抗う為に生命が編み出した唯一の方法。

常にエントロピー(=乱雑さ)は増大する方向に進んでいくのに対し、それを強固に防ごうとするのではなく、エントロピーが増大するのを先回りして自らを壊し、増大したエントロピーを捨て去り、再構築することでエントロピーが増大するのを防ぐ。

では、組織をバーチャルな生命と捉えたらどうか?

組織も、その中身が固定化されるとマンネリ化し、やはりエントロピーが増大する。

それを防ぐために、常に新しい考えを導入し、組織を刷新し続けなければ、「死」いわゆる倒産がまっている。

本書では動的平衡論の組織論への拡張については意外なほどあっさりと書かれており、もう少し突っ込んで著者の考えを知りたかった所だが、私の考えとしては、時間の関数としてあるものは全て適用できそうな気がしている。

会社を代表とする組織も、当然時間の関数として存在している。

大きな会社になればなるほど組織はセクショナリズムが強くなり、どちらかというと、強固な、変化が困難な組織構造になりがちではないだろうか?

それは、一見エントロピーの増加に有効に見えて、実はもろい。

生命のように、各セクションが縦横のセクションと重なり合って平衡を保つような組織構造が、長く繁栄できるコツなのではないだろうか?

●老化とは何か?

早老症という病気がある。

よく、テレビ番組で特集が組まれているので知っている人も多いだろう。

そう、子供の年齢なのに老人のような見た目になってしまう病気。

この病気の原因は解明されており、それは、DNAを修復する仕組みに関わる遺伝子の異常だそうだ。

逆に言えば、それは老化のしくみがわかったという事でもあるのだろう。

老化とは、動的平衡論的に言えば、エントロピー増大の法則に少しづつ侵されていく状態。

そのエントロピー増大、ここで言えばDNAのコピーミスを修復するシステムを担う遺伝子が異常をきたすことによって老化が異常に促進されてしまう。

これが早老症である。

ということは、そのシステムを強化してやれば不老の夢もかなうのか?

いやいや、そんなに簡単に宇宙の大原則には抗えないんだろうな

●記憶が遺伝する?

記憶が遺伝する?なんてことはない。

しかし、本書に紹介されているマウスの実験によって、学習した記憶そのものではなく、「感度」みたいなものが遺伝される事がわかったそうである。

この事実はこの本の中で一番驚いた事かもしれない。

まだまだ記憶に関してはわかっていないことがたくさんあるので、これから徐々に解明されていくと思うと、ワクワクしてきます。

●「ガン」とはいったい何なのか?

人間にとって「ガン」とはいったい何なのか?

もちろん病気ではあるが、それ以前に生命とは何か?のヒントを与えてくれてはいないだろうか?

ガンは他の病気と違って、自らの細胞が暴走した結果である。

そして、万能細胞として知られるES細胞やiPS細胞は、ガン細胞と表裏の存在と言われている。

要するに細胞が分化される前の、役割を与えられていない状態の細胞。

最近の研究によってガン化した細胞を再び通常の役割を与えられた細胞に戻す事に成功したそうだ。今後のガン治療に期待できる成果だ。

福岡先生はこんな例えでガンを表現している。

「ガン細胞とは、中年のオヤジが、ふとした瞬間に自分の役割を忘れて自分探しの旅に出ているようなもの」だと

いい年して自分探しなどせずに、自分の役割を果たしなさい!と言われている気がしました。

●Chance favors the prepared mind

「チャンスは準備された心にのみ降り立つ」

この本の副題にもあるこの言葉

私は実感をもってこの言葉の重要性を感じています。

これは、このブログでも紹介させていただいた苫米地博士のスコトーマ理論にも通じる話。

スコトーマとは眼科用語で盲点の意味だそうで、機能脳科学では、脳は重要と認識したモノしか見えないという事らしい。

多くの人が実感している例で言えば、

車を購入する際、購入を検討している車種が急に街中で多くみかけるように感じる。なんて思ったことありませんか?

当然いきなりその車種が増えるなんて事はありえないので、それは、その人の脳の中でその車種の重要度が上がって、脳が認識するようになっただけなんです。

ということは、チャンスも色々なところに転がっているかもしれないのです。

ただ、それが視えているかどうかであって、それを視えるようにする為には、「準備」、要するに様々な事に興味をもって、色々な事の重要度を上げて、脳が認識できるようにしてあげる必要があるんだと。

そうすることで違う分野の物事と物事が繋がって、新しい事が出来たりするんでしょうね。

 

本書は、これまでの3冊とは少し違った目線で動的平衡論を展開していて、そこがまたおもしろかったりします。

今後も分子生物学が明らかにする世界から目が離せません。